再発防止策の実効性を高めるために

早野: これまでは、取締役会と経営委員会の機能・役割の違いを十分に意識することが難しい組織構造になっていたと思います。再発防止策を受けた新体制では、経営と執行を意識的に分離したことで、企業統治を行う取締役、業務遂行に責任を持つ執行役員の役割が、組織上も意識上も明確になったと感じています。

日下: 再発防止策では80を超える細かな施策を整備し、緻密な実行体制が構築されました。これは間違いなく必要ですが、現時点ではまだ、健全な会社経営のためのプラットフォームやツールを作ったに過ぎません。重要なのは、このツールをいかに使いこなし、社内に定着させていくかです。当社では過去にさまざまな事案が発生しており、その時々で同じような視点の対策は講じてきています。しかしそこで満足してしまい、実際に定着させるまでには至っていなかったのだと思います。では、再発防止策に実効性を持たせるには何が必要なのか。それは、改革に向けた経営陣の情熱です。経営陣の話が社員に伝わらないと聞くこともありますが、それは、経営陣ができていないことが鏡となって社員の行動に表れているのだと私は話しています。どれだけの情熱を持ち、継続的に改革に取り組んでいけるか、経営陣の覚悟が問われています。

早野: 加えて、この会社で働くすべての社員に「正しい仕事をする」という意識が育つことが大切です。ルールは作って終わり、知って終わりではありません。ルールを守ることの重要性を心の底から理解し、実行に移すことが必要です。今回の事案を会計ルール上の問題と片づけるのでなく、組織全体を見渡した上で、少しでも企業価値を棄損するような兆候があれば迷わず上司に報告し、組織として対応していく。これまでの組織風土を変えることは容易ではありませんが、今こそ全社をあげて取り組んでいくべきです。

伊藤: 日下さんがおっしゃるように、再発防止策自体は他社と比較しても充実していると思います。その中で私が最も重要だと思うのが、経営陣による積極的な関与です。取締役のようなポジションになると、どうしても社員との距離が遠くなってしまうことがありますが、これからの企業に求められるのは経営層と社員がダイレクトに関わり、共に会社を成長させていく姿勢だと思います。社外取締役としても実務をしっかりと把握し、不正リスクへの対応など、さまざまな観点から意見を発信していきたいと考えています。

日下: 社外取締役と社員との対話の場を設ける話が出ています。社外取締役の役割の一つに、次世代の経営に向けて社内とは異なった観点による組織や人物の評価があるので、とてもよい取り組みだと感じています。これまで、次世代経営層の検討は、ほぼ取締役会の中で行われていましたが、社外取締役が候補者を理解するには十分ではないと感じる面もありました。また、執行側にいる社員により多くのマネジメント経験をさせながら、次の経営層を育成するという意識も不足していたように思います。これには早急に手を打たなければなりません。特に次代を担うポジションにいる社員については、個人の性格を把握できるレベルまでコミュニケーションを深めていきたいと考えています。